2008年6月14日土曜日

神宮前のアトリエ、オリジナルであり続けることの難しさ

「神宮前のアトリエ」はある芸術家のアトリエ兼住宅として設計された。その後の経緯はわからないが、今は高級フレンチ・レストランとして営業している。大幅な改築が行われており、そのデザインは何とも言いようがない。












どんなに手入れをしても建物には寿命がある。また持ち主の状況も変わる。家族構成やライフスタイルの変化などで、間取りが生活に合わなくなることもある。二十年、三十年という期間では増改築もあり得るだろう。建築は作品であると同時に実用品でもあり機能性も重要なのだ。オリジナルのままであり続けるためには住む人のライフスタイルも変えられないことになる。その結果、住み手に犠牲を強いることになってしまう。ここに芸術作品としての建築の難しさがある。絵画や彫刻などの純粋な芸術作品は、完成し依頼人に引き渡された後は、意図的に変更が加わえられる事はまず考えられない。劣化や修復のために手が加わった場合ですら、真贋問題に発展する事さえある。

安藤建築の場合、施主の多くがまた安藤に増築を依頼するというデータがあり、リピート率は高い(安藤の著作「家 1969-96」では、自らこれまでに設計した家のおよそ三割は増築していると思う、と述べている)。安藤の作風は好き嫌いがはっきりし易いが、気に入った人の満足度はかなり高いのだろう。折角安藤に頼んだのなら、増改築も安藤に頼んで欲しいものである。

「神宮前のアトリエ」にはどうしても言っておきたいことがある。そこで営業しているフレンチ・レストランは高級店らしく、値段がかなり高い。当惑するのは「世界的建築家の安藤忠雄が設計した...」などと安藤建築であることを宣伝に使っている事である。これは如何なものか。宣伝に使うならオリジナルのままか、もし増改築がされたとしても安藤自身が行ったか、最低でも安藤の承諾を得た場合に限るべきだろう。料理が本物であるなら、建物も本物であるべきだ。こんな事だとレストランとしての経営姿勢まで疑われても仕方がない。

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