2009年5月11日月曜日

売りに出ている安藤忠雄の住宅

驚いたことに安藤忠雄設計の個人住宅が売りに出ている。しかも二軒あり、いずれも東京都内である。その内の一軒が今回取り上げる「金子邸」である。

渋谷区の閑静な住宅地にあるこの作品は、夫婦と子供一人の3人家族のために設計されたが、二階建て延床面積169平米、敷地173平米、ベッドルームが3つにリビングとダイニング、お約束の中庭と吹き抜け、そしてガレージがあり最寄り駅徒歩5分という、昨今の基準からはかなりの高級物件であろう。竣工は1983年で築26年だがメンテナンスはよくされているようだ。

価格は何と4億5千万円である。最寄り駅ではないが渋谷駅が徒歩圏という立地を考えれば仕方が無いようにも思えるが、この価格について少し考察してみたい。

調べてみるとこの場所の路線価は112万円である。単純計算では土地代が1億9千4百万円ということになる。建物の評価は難しいが、普通の鉄筋コンクリートの住宅だとすれば新築でも5千万円ぐらいではないだろうか。土地の実勢価格は路線価よりも高いことが一般的なので、安藤建築ではない普通の鉄筋コンクリート造の住宅と考えれば2億5千万円から3億円ぐらいが妥当なところではないかと思う。

安藤忠雄の作品はどこにでもあるものではない。買いたい、と思っても売っていない。家として住み難いとか,実用的でないとか批判は沢山あるが、要は趣味の買い物である。欲しければ買う。そういうものだ。だからこの価値を評価するのが難しい。そこらあたりがこの4億5千万円に現われているのかも知れない。

面白いことにこの物件は賃貸としても紹介されている。家賃は月額100万円である。これは興味深い賃料の設定である。あなたがこの家を4億5千万円で買い、賃貸に出せば年間1千2百万円の収益が得られる。これでは利回り2.7%にしかならない。中古の収益物件をこの利回りで買う人はいないだろう。できれは10%以上、最低でも5%は欲しいところだ。つまり家賃が安過ぎるのか、販売価格が高過ぎるのかどちらかなのだ。家賃100万円が妥当で利回り10%なら家の価格は1億2千万円、5%で2億4千万円となる。もし販売価格を妥当と考えれば家賃は月額375万円から188万円になってしまう。この家賃で借りる人はいるだろうか。小室哲也は西麻布のマンションのワンフロアを借り切って月額200万円以上の家賃だったそうだが、払えずに滞納していたらしい。

やはり4億5千万円には安藤建築のプレミアムが相当に付いているようだ。ところでこの物件は2006年11月から賃貸に出ている。3年近く買い手が付いていないことになる。流石にこの金額を趣味に使える人は多くない、ということだろう。

2009年5月6日水曜日

地鎮祭

地鎮祭をすることにした。いや、実はするつもりはなかったのだが、親戚筋からの強い意見があり、することにしたのである。生和建設によると地鎮祭をする物件オーナー(地主)は半分ぐらいなのだそうである。今や地鎮祭をせずに着工するのは珍しくないのである。
地鎮祭は神社に頼むのだが、これが結構安くない。お祭りだけではなく、更地にテントを立て、祭壇や盛り土を用意するなど事前の段取りがあるのだが、この準備が大変なのだ。普通は神社はお祭りの部分しかしないので、テントその他の準備は工事会社がするのだが、工事会社もそれが専門ではないので普通は十万円から十五万円ぐらいかかってしまうらしい。神社への玉串料も含めると二十万円ぐらいになるだろうか。ところが最近は地鎮祭専門の神主、神社もあるそうで、そこでは事前の作業もセットに含まれる上に全て合わせて五万円ぐらいで納まる。前の晩から設営をするのだが大変手馴れて要領よく済ませてくれるそうだ(工事会社に頼むとこの辺りの手際はよくない)。生和建設もそういうところとコネがあるので、生和建設に頼んで手配してもらうことにした。日取りは4月12日(日)の午前10時からになった。
実際にやってみると、なかなか良いものだった。施主の私が儀式に参加して盛り土にシャベルを入れたり敷地の四方に塩を撒くのだが、生和建設の設計責任者も同様に参加するなど、建物を建てる作業は多くの人の共同作業なのだと認識を新たにできた。そしてつつがなく工事が完了することをお願いできた。手際よく進み終わるまで30分ほどだっただろうか。地鎮祭の後、地元の神社にお参りして鎮守の神様にもお願いした(こうするのが正しいやり方らしい)。

解体はあっという間に

以下は3月28日のことである。いよいよ解体の時が来た。幸いにも週末に現地へ見に行くことができた。もう解体も半ばまで進んでいると思っていたのだが、まだ家そのものには手が付けれらていなかった。中に入ってみると家具や畳などが処分されていた。そうこうするうちに重機が到着した。灯篭や手水鉢など、残すものを解体して重機で搬出したあと、いよいよ解体作業が始まった。

本当に見ていて悲しい体験だった。皮肉な事に、解体直前の整理で、この家が昭和六年に建てられたことや当初に建築されてから二回ほど増築されたことを示す書類や図面が出てきたのである。これらは聞いてはいたが直接的な証拠を見たことはなかった。他に選択の余地がないというのが私の結論だが、私の判断で築八十年にもなる家を壊すことの是非を思わずにはいられない。この家は、本家から分家した祖父が建てたもので、分家の歴史そのものだからだ。

多少の雨漏りなどはあったが、まだまだ柱や骨組みはしっかりしていた家だが、解体はあっという間だった。重機が梁や柱を引っこ抜く度にあっけないほど簡単に崩落する。縁側、玄関、座敷など見慣れた部分がたちまちに瓦礫の山に変わっていく。一時間ほどで家の約三分の二が無くなった。
今日の作業はここまでとのことだった。翌日は日曜日なので作業はなし。残りの三分の一は月曜日に解体するそうだ。残念ながら立ち会うことはできない。解体の前半に立ち会えた事を本当に幸運に思う。

2009年5月5日火曜日

韓国で思ったこと

2月に韓国に行く機会があった。ソウルにある最先端の巨大ショッピングモール、COEXモールへ行ったが、そこでの体験について書いておきたい。

ソウルでも最先端のスポットであり、東京にあるショッピングモールと変わらない。IT技術の利用については日本よりも進んでいると思われる部分もある。その一例が以下である。これはショッピングモールの案内板であが、これ自体は珍しいものではない。
あっ、と思ったのは、これが巨大なタッチパネルスクリーンになっているのだ。興味のあるエリアやお店をタッチすると、そこの拡大図や詳細情報が表示されたりする仕掛けである。凄いと思って使ってみると、これがなかなか使えないのである。まず前の人が使い終わるのを待たないと使えない。ただの表示板なら横なら覗き込んで目的を果たすことができるが、このシステムでは使用中の人が詳細情報画面や拡大図を表示をしていると、もう案内板としては使えない。急いでいる時は困ってしまう。

さらに困ったことは、ハングルのみ対応らしいことである。いや一応「English」という選択肢があるのだが、そこを押しても英語はさっぱり出てこない。操作方法が悪かったのかもしれないが、手も足も出なかった。ちなみにCOEXモールにはインチョン国際空港へ直結のバスターミナルがある。こんなことで良いのだろうか。

もう一つの困った体験が以下である。トイレに入ると、便座には全てウォッシュレットが装備されている。だが感心したのもここまでだった。いざ使おうとすると、操作パネルがハングルのみなのだ。日本ではボタン類にはわかりやすいイラストやアイコンがついていたと思うが、その程度の配慮はして欲しいものである。これでは怖くてボタンが押せないではないか。

いろいろと頑張っているのはわかるが、国際都市の最先端スポットにしては、詰めが甘い。そう思えてならない。

名古屋にある安藤建築

今日、5月5日はあいにくの雨だったが、名古屋に立ち寄る時間があったので名古屋の安藤建築を探訪することにした。まず行ったのは栄にある「J-ROOM」である。

前面から受ける印象は、神戸の北野にある「ウォールアベニュー」や「北野TO」に似ている。内部には吹き抜けと階段を巧みに配置した安藤ワールドが広がっている。地階は頭上に細い回廊が一本通り、その両側が吹き抜けなのでまるで「住吉の長屋」である。

味わい深い空間であるが、安藤の商業建築のお約束通り、最上階の3階は空き室であった。二階も三階もテナント用のスペースなのだが入り口がわかりにくいのだ。特に三階の入り口は階段を上り詰めた奥の方にある。麻布の「TKビル」と似たような構図である。

周辺のビルは中層から高層化が進んでおり、3階建てのこの作品はかなり低い方である。綺麗に維持されているが土地の利用効率から考えて建替えになっても不思議はない。

次に訪れたのが一社にある「THE QOLビル」である。

クリニックなど医療関係の団体が入居しているビルだが、全く普通のビルである。上層階は賃貸物件になっているようだ。何となくシルエットが「Grandee T Umeda」などを思わせるが、安藤を髣髴させる吹き抜け、斜めに軸線を振った壁、空間を切り取るフレームといったものが一切ないのが残念である。

祝日のためか入り口もシヤッターが降りていて中を窺うこともできなかった。

この後、個人住宅である「小倉邸」を見学した。「住吉の長屋」のようなコンクリートの直方体だが、一方向にだけ開口部あり、外に対して開いている。「住吉の長屋」よりもかなり大きい立派な住宅である。安藤らしい素晴らしい作品であった。個人住宅は、じっくりと鑑賞しずらいのが難点である。特に雨の人通りの少ない住宅地では。