2008年5月28日水曜日

CUE NISHIAZABU、安藤忠雄の億ション

CUE NISHIAZABUはその名の通り、東京都港区の西麻布にあるマンションである。安藤忠雄が手がけた賃貸物件や集合住宅は多くはないが、これはその一つである。2003年に竣工し11戸ある。もともとは分譲用として建てられたらしいが、現在は賃貸できる部屋もあるようだ。中古で売りに出ている部屋があり約40㎡で七千万円弱、約110㎡で一億五千万円強という結構な価格である。さほど近いわけではないが六本木駅と広尾駅が徒歩圏である立地を考えれば、致し方ない価格かも知れない。
安藤忠雄の賃貸物件が少ない理由はその建設コストの高さにある。建築家の設計料が高いと思われがちだが実はそうではない。賃貸物件は収益率が命である。建設コストに対する家賃収入の利回りを考え、他の投資よりも有利であれば賃貸経営をするのが普通だ。
利回りを高くするため、賃貸物件では徹底的にコストダウンを図る事になる。鉄筋コンクリート造であれば極力鉄筋の本数を減らし、コンクリートの量を少なくする。これが行き過ぎたのが耐震偽装であった。

安藤忠雄はコンクリート壁の厚さなどを主に美的感覚だけで決めてしまうそうだ。またコンクリートの表面を滑らかにするため型枠に使うベニヤ板の表面に塗料を塗るなど手間のかかることをする。多くの材料と手間と高い施工技術を必要とするため、どうしても割高になる。一説では普通に建てた場合の倍ぐらいかかるそうだ。その結果賃貸物件としては成り立たなくなってしまう。いくら安藤建築だからと言っても家賃を相場の2倍や3倍にはできないからだ。

この物件のように、もともとの土地代がべらぼうに高い場所では、家賃相場も相当に高い。また土地取得コストに比べたら建築費は相対的に安いため建築費が割高であっても総額が大きく膨らむわけではない。賃貸として成り立つ可能性が高くなる。安藤建築だから億ションなのではない。億ションだから安藤建築が可能になるのだ。もちろんこの難題をクリアしても、安藤忠雄が設計を引き受けてくれるかどうかはまた別である。安藤の賃貸物件は希少なのである。

2008年5月27日火曜日

TKビル、商業建築の難しさ

最近に探訪した安藤忠雄の作品にTKビルがある。バブル期の始まりかけた1986年に竣工した、一見何の変哲もない3階建てビルに見える。地階と一階にテナントとして飲食店が入居しており、それに合わせた装飾が施されているため、正面から見る限りとても安藤の作品には見えない。












しかし外からは見えないのだが、建物の右横手から背後にかけて地階からコンクリート壁に囲まれた吹き抜けがある。建物の背後の壁は曲面になっており、そこに沿って外階段が取り付け られている。安藤らしい、実に巧みな空間構成だと思う。敷地面積277㎡という限られたスペースが上手く生かされており、ガレリアアッカと共通した空間の 豊かさを感じる。面白いことに二階と三階はメゾネットのように建物内の階段で繋がっており、さらに二階から三階にまたがる吹き抜けまで確保されている。
ただ残念なことに二階、三階は完全な空き室であった。

駅から近いわけではないが、東京都港区の大通りに面したわかり易い場所にある。借り手がつかない理由は、これも安藤建築の共通点だがアプローチのわかりにくさだろう。一階はいいのだが、二階、三階への階段は非常階段かメンテナンス用の通路のようで、お店の入り口とは思えない。もともとはオフィスビルとして計画されたようなのだが、それを割り引いても、初めて来るお客が入り易い作りではない。

ドルフ・デ・ルース著の「お金持ちになれる"超"不動産投資のすすめ」という本に面白いことが書いてあった。居住用物件が空き室になったとすれば、その理由はただ一つ、賃料が相場より高いからだ。間取りが悪いからでも設備が古いからでもない。弱点があったとしてもそれに応じて賃料を下げれば必ず借り手は現れると言うのだ。しかし、商業用物件はそうではない。商売には商売に必要な条件が必ずあり、それを満たさない限り、賃料を半額にしても借り手はないのだ。

このビルを居住用にコンバージョンすれば、面白い物件になるのではないか。特に二階、三階がいいのではないか。そんな風に思ってしまった。もちろんコンバージョンも安藤本人が手がけて欲しい。

2008年5月25日日曜日

佐々木邸跡

今日、安藤忠雄の作品である個人住宅、佐々木邸を見に行った。正確には佐々木邸の跡地であるが。この住宅は1986年に竣工した、敷地面積約380㎡の二階建ての住宅で昔の安藤の作品にはよく見られたコンクリートブロック造の建物である。実物を見る機会は永久に失われたが、出版物の写真から外観は京都にあるTIME'Sに近い印象がある。東京都港区という場所を考えればかなりの邸宅であろう。なぜ取り壊したのかわからないが、現地を見てみると道路の拡張のためのようだ。どんな理由であれ安藤の作品がたかだか築二十年程度で解体されるなど残念でならない。

環境問題の見地からも住宅は長寿命化が望ましいと思うが、個人レベルでいくら頑張っても都市計画に不備があればその努力は報われないだろう。