最近に探訪した安藤忠雄の作品にTKビルがある。バブル期の始まりかけた1986年に竣工した、一見何の変哲もない3階建てビルに見える。地階と一階にテナントとして飲食店が入居しており、それに合わせた装飾が施されているため、正面から見る限りとても安藤の作品には見えない。
しかし外からは見えないのだが、建物の右横手から背後にかけて地階からコンクリート壁に囲まれた吹き抜けがある。建物の背後の壁は曲面になっており、そこに沿って外階段が取り付け られている。安藤らしい、実に巧みな空間構成だと思う。敷地面積277㎡という限られたスペースが上手く生かされており、ガレリアアッカと共通した空間の 豊かさを感じる。面白いことに二階と三階はメゾネットのように建物内の階段で繋がっており、さらに二階から三階にまたがる吹き抜けまで確保されている。
ただ残念なことに二階、三階は完全な空き室であった。
駅から近いわけではないが、東京都港区の大通りに面したわかり易い場所にある。借り手がつかない理由は、これも安藤建築の共通点だがアプローチのわかりにくさだろう。一階はいいのだが、二階、三階への階段は非常階段かメンテナンス用の通路のようで、お店の入り口とは思えない。もともとはオフィスビルとして計画されたようなのだが、それを割り引いても、初めて来るお客が入り易い作りではない。
ドルフ・デ・ルース著の「お金持ちになれる"超"不動産投資のすすめ」という本に面白いことが書いてあった。居住用物件が空き室になったとすれば、その理由はただ一つ、賃料が相場より高いからだ。間取りが悪いからでも設備が古いからでもない。弱点があったとしてもそれに応じて賃料を下げれば必ず借り手は現れると言うのだ。しかし、商業用物件はそうではない。商売には商売に必要な条件が必ずあり、それを満たさない限り、賃料を半額にしても借り手はないのだ。
このビルを居住用にコンバージョンすれば、面白い物件になるのではないか。特に二階、三階がいいのではないか。そんな風に思ってしまった。もちろんコンバージョンも安藤本人が手がけて欲しい。
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