2009年8月6日木曜日

玄関に見る、安藤建築の厳しさ

幸運にも都内にある安藤忠雄設計の個人住宅の内部を見学できる機会に恵まれた。大使館などがある閑静な住宅地にある、敷地面積136㎡、建築面積218㎡、1993年竣工の鉄筋コンクリート造3階建、最寄り駅から徒歩9分の作品である。これも売りに出ており3億6千万円という法外な価格がついている。立地や大きさからはかなりの高級住宅だが、この価格は相場よりも相当に高いと思われる。
興味深いことに、この住宅は安藤の作品集、作品リストには一切出てこない。従って作品の名前もわからない。理由として安藤本人が気に入っていないこと、または所有者が公表を望んでいない事等が考えられる。私自身が見た限り、お約束の中庭やスリット、曲面と直線の組み合わせなど安藤らしい作品で、失敗作とは思えない。

「住吉の長屋」のように雨の日は傘が無いとトイレに行けないといったことも無く、デザイン重視だが機能的には普通の家との印象だった。しかし最後に退出する祭に玄関で「あっ」と思うことが出てきた。左の写真がその玄関だが何か気が付かれたことはあるだろうか。

「上がりかまち」が半端に低いとか、そう言うことではない。下駄箱がないのだ。壁に埋め込まれた収納もない。しかもこの通路の幅や、デザイン的な観点からは何らかの収納家具を設置することは全く配慮されていない。だから家のどこかに履物類をしまうスペースを確保し、そこから靴を出し入れしなければならない。写真からその収納スペースは玄関の直ぐ傍には確保できないことがわかるだろう。

履物だけではない。傘、コート、手袋、その他の出かける際の準備は玄関に到達する数メートル手前で「完成」していなくはならない。毎日の事で、これがどれ程大変で苦痛に満ちたものなるかは想像に難くない。ある意味、このままの状態で暮らすには「住吉の長屋」以上に厳しい家かもしれない。

もしかしたら他にも見落としたことがあるのかも知れない。本当に油断の出来ない、巨匠の隠れた作品であった。

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