北米大陸で唯一、世界遺産に認定された旧市街は、塔門と城壁に囲まれた城塞都市であり景観がよく保存されている。さながら中世のヨーロッパの町のようである。街中の広場ではアトラクションが催され、周りの建物も内部はきれいに、そして近代的にリニューアルされた売店などになっている。
素晴らしいのだが、見て歩くうちに何故か違和感を感じるようになる。とにかく美しく、こぎれい過ぎるのである。「中世さながらに」と書いたが、本当の中世のヨーロッパの町は、そこかしこに馬糞やゴミがあり、現代人の感覚からはひどい有様だったはずだ。建物ももっと煤けて薄汚れ、手入れが及ばす壊れかけた部分もあったのではないか。そいういう生活感というか、人が暮らしている気配、生活の場と言う空気がないのである。
きれいに手入れされた中世ヨーロッパ調の町並み。広場で繰り広げられるアトラクション。周りの建物の内部は近代的な売店やレストラン。どこかで見たことはないか。
そう、これではまるでディズニーランドだ。どうしたことか今や世界遺産がディズニーランドを真似ているらしいのだ。安藤忠雄も言っていることだが、都市の記憶として街並みみを保存することは大事だ。しかしそれは生活や仕事の場としての役割を果たした上でのことではないだろうか。ケベック・シティで有名な高級ホテル「フェアモント」はフランスの古城をイメージしてアメリカ人の建築家ブルース・プライスが設計し1893年に建築された(私が観光した時、セリーヌ・ディオンが泊まっていたらしい)。旧市街の高台にあり、下町からもよく見える。どう見ても城にしか見えないが、このデザインは市民の要望だったそうだ。100年以上も前から市民が自らディズニーランド化を志向していた、とも言えるのかもしれない。