2009年5月5日火曜日

名古屋にある安藤建築

今日、5月5日はあいにくの雨だったが、名古屋に立ち寄る時間があったので名古屋の安藤建築を探訪することにした。まず行ったのは栄にある「J-ROOM」である。

前面から受ける印象は、神戸の北野にある「ウォールアベニュー」や「北野TO」に似ている。内部には吹き抜けと階段を巧みに配置した安藤ワールドが広がっている。地階は頭上に細い回廊が一本通り、その両側が吹き抜けなのでまるで「住吉の長屋」である。

味わい深い空間であるが、安藤の商業建築のお約束通り、最上階の3階は空き室であった。二階も三階もテナント用のスペースなのだが入り口がわかりにくいのだ。特に三階の入り口は階段を上り詰めた奥の方にある。麻布の「TKビル」と似たような構図である。

周辺のビルは中層から高層化が進んでおり、3階建てのこの作品はかなり低い方である。綺麗に維持されているが土地の利用効率から考えて建替えになっても不思議はない。

次に訪れたのが一社にある「THE QOLビル」である。

クリニックなど医療関係の団体が入居しているビルだが、全く普通のビルである。上層階は賃貸物件になっているようだ。何となくシルエットが「Grandee T Umeda」などを思わせるが、安藤を髣髴させる吹き抜け、斜めに軸線を振った壁、空間を切り取るフレームといったものが一切ないのが残念である。

祝日のためか入り口もシヤッターが降りていて中を窺うこともできなかった。

この後、個人住宅である「小倉邸」を見学した。「住吉の長屋」のようなコンクリートの直方体だが、一方向にだけ開口部あり、外に対して開いている。「住吉の長屋」よりもかなり大きい立派な住宅である。安藤らしい素晴らしい作品であった。個人住宅は、じっくりと鑑賞しずらいのが難点である。特に雨の人通りの少ない住宅地では。

2008年11月25日火曜日

再開発に立ちはだかるもの

借りたものは返す。これは社会生活の中で基本中の基本である。だが世の中には持ち主にどれだけ頼まれても、返さなくてもいいものがあるのだ。
そう、借地や借家である。旧借地借家法に基く借地や借家は、契約期限が来ても、持ち主が退去を求めても、単に借り手の都合だけでそのまま借り続けることができるのだ。どうしても退去してもらうには、金銭的な補償(いわゆる立ち退き料)をするしかなく、それも法外な額を要求されることが多い。最近に見聞した例では、借家を20年近く借りていた借家人は、立ち退き料として過去に支払った家賃総額の半額を払えと家主に要求していた。これでは何のために貸していたのかわからない。

要は持ち主の都合などどうでもいいのである。旧借地借家法(正確には借地法、借家法及び建物保護法を合わせたもの)は明治から大正にかけて制定された法律である。当時は地主、家主は金持ちで、借家人、借地人は貧乏人が多くて立場が弱かったという分かり易い構図があった。しかし今の時代には合ったものとは言い難い。実は1992年に法改正され今の借地借家法では、定期借地権、定期借家権という考え方が導入されている。この契約方式ではいかななる事情があっても期限がくれば立ち退かなくてはならない。残念なことに法改正以前に締結されている契約は旧法が適用されることになっている。未だに多くの地主、家主はこの恩恵を受けられないでいる。

人間にとって住まいは大事で借り手を保護する観点はわからないではない。しかし借りたものは返すのが道理である。一度貸したら二度と返ってこない、ではどこにも正義が無いではないか。

写真は安藤忠雄設計の「表参道ヒルズ」。商業施設だけではなく賃貸物件でもある。建設にあたり土地・建物の権利関係の整理が大変だったという。再開発の話は何度となく持ち上がったのだが、利害関係の複雑さから全て頓挫していた。安藤の熱意と粘り強い説得が関係者を動かし、完成に漕ぎ着けたそうだ。

2008年9月20日土曜日

考えさせられる世界遺産、ケベック・シティ

出張でカナダのケベック州に行く機会があった。仕事はモントリオール郊外だったが、週末にケベック・シティを観光する時間があった。モントリオールからバ スで3時間ほどである。今年はケベック・シティの400周年記念の年であり、いろいろなイベントが企画されていたようだ。

北米大陸で唯一、世界遺産に認定された旧市街は、塔門と城壁に囲まれた城塞都市であり景観がよく保存されている。さながら中世のヨーロッパの町のようである。街中の広場ではアトラクションが催され、周りの建物も内部はきれいに、そして近代的にリニューアルされた売店などになっている。

素晴らしいのだが、見て歩くうちに何故か違和感を感じるようになる。とにかく美しく、こぎれい過ぎるのである。「中世さながらに」と書いたが、本当の中世のヨーロッパの町は、そこかしこに馬糞やゴミがあり、現代人の感覚からはひどい有様だったはずだ。建物ももっと煤けて薄汚れ、手入れが及ばす壊れかけた部分もあったのではないか。そいういう生活感というか、人が暮らしている気配、生活の場と言う空気がないのである。


きれいに手入れされた中世ヨーロッパ調の町並み。広場で繰り広げられるアトラクション。周りの建物の内部は近代的な売店やレストラン。どこかで見たことはないか。

そう、これではまるでディズニーランドだ。どうしたことか今や世界遺産がディズニーランドを真似ているらしいのだ。安藤忠雄も言っていることだが、都市の記憶として街並みみを保存することは大事だ。しかしそれは生活や仕事の場としての役割を果たした上でのことではないだろうか。ケベック・シティで有名な高級ホテル「フェアモント」はフランスの古城をイメージしてアメリカ人の建築家ブルース・プライスが設計し1893年に建築された(私が観光した時、セリーヌ・ディオンが泊まっていたらしい)。旧市街の高台にあり、下町からもよく見える。どう見ても城にしか見えないが、このデザインは市民の要望だったそうだ。100年以上も前から市民が自らディズニーランド化を志向していた、とも言えるのかもしれない。

2008年8月11日月曜日

らしくなかった、安藤の東京メトロ副都心線渋谷駅

やっと安藤忠雄設計の渋谷駅を見に行く事ができた。GAギャラリーへ「現代世界の建築家」展を見に行った帰りに副都心線へ乗ったからだ。「地宙船」と名付けられた卵型の空間や三層分を貫くコンコースからホームへの吹き抜け、自然換気の採用など話題が多い駅である。

しかし実際に受ける印象はごく普通の駅である。安藤の設計でもコンコースの壁や天井はコンクリ打ちっ放しではない。内装や各種の表示板、標識なども他の駅と変わらない。恐らく東京メトロとしての規格や規則があるからだろう。期待していた「地宙船」も確かに卵型の先頭部分が目立つように配置されているが側面の開口部がかなり大きいため、全体が巨大な卵型であるとは認識しにくいかも知れない。安藤の作品は閉じた空間構成であることが多いので、卵も大半が閉じた空間だと期待していたのだが、流石に駅ではそのような設計は無理だったようだ。
それでもよく見ればプラットフォームの空調設備が組み込まれた金属製のベンチ、トーチカのような券売機ブースや駅員室・案内所など、安藤のデザインが見て取れる。

この駅を見て、学生の頃の読んだある記事を思い出した。カーデザイナーの巨匠ジウジアーロのインタビュー記事だったと思うが、ジウジアーロは次のようなことを述べていた。「世間から見れば自分は全く自由気ままにデザインしていると思われているようだが、車のデザインには皆が思っているような自由度は無い。エンジンやギアの形状やサイズ、乗員の数などからドア、ボディその他の形状はほぼ決まってくる。それに加えて各国の法律や規制なども考慮すれば、自由にデザインできる部分はほとんどない。」ジウジアーロの卓越した作品を見たことがあれば意外に思うコメントだが、真実を突いているようだ。公共建築でも駅はかなり制約の多い方だと思う。また用途も極めてはっきりしている。実は独自性を出しにくい与件だったのではないだろうか。

2008年7月25日金曜日

これからどうなる、大阪府の安藤博物館

大阪府ではマスコミに報じられている通り橋下知事が大活躍している。行政改革はあれぐらいの勢いと覚悟でやるべきで、その行動力は素晴らしいと思う。だが安藤建築のファンとしては少々困ったことになりそうな雲行きなのである。
大阪府には安藤忠雄が設計した博物館が二つある。「近つ飛鳥博物館」と「狭山池博物館」である。橋下知事は補助金削減の話の中で「図書館以外の府立施設はすべて見直し」という発言をしているからだ。なぜ図書館以外なのかはよくわからない。改革に聖域を設ない方針は理解できるし、いわゆる箱モノには好景気の時に勢いだけで作られ、その意義もはっきりせず市民の利用率も高くないものが多いからだ。


この二つの博物館は安藤らしい素晴らしいものだ。安藤の作品集にもしばしば登場するので安藤自身も気に入っている作品だと思われる。両方とも展示物や展示内容も充実しており、かなり立派な博物館である。ただ博物館としてのコンセプトなどが十分に検討されたのかどうか批判する声もあるようだ。もしそういう部分があるとすれば、それは建築家の問題ではなく、施主(つまり大阪府)の問題なのだが。

私が訪問した時、どちらの博物館もとても賑わっているとは言えない状況だった。訪問したのは年末年始とゴールデンウィークの連休期間である。特に「近つ飛鳥博物館」はその主題である古墳地帯にあるため、公共交通機関で行くには恐ろしく不便な場所にある。多少のテコ入れで状況が変わるとは思えない。かく言う私自身も安藤建築でなかったら恐らく訪問していないだろう。

どのような結論になるのかわからないが、どんな結論でも建物だけは残して欲しい。これが正直な気持ちである。

2008年7月18日金曜日

安藤忠雄のサイン本

安藤忠雄の講演会に行くと、その後に書籍の即売会とサイン会があることが多い。私も過去に2回ほど書籍を購入してサインをしてもらった。

















サインをしている時の安藤はニコニコしており、とても楽しそうだ。サインもただ自分の名前を書くだけではない。書籍の購入者の名前と安藤建築のイラストまで書き添えるという、大変にサービス精神旺盛な対応なのである。サインをするのはサイン会だけではない。紀伊国屋や旭屋のような一般の書店で売られている本にもサインとイラストが描いてあるのをよく見かける。多忙なはずの毎日なのに、著作へのサインにかなりの時間とエネルギーを費やしているようだ。

安藤の性格については、気難しいとか、怖い人のように言われる事があるようだ。過去に「細工谷の家(野口邸)」の建築を取材したNHKのドキュメンタリー番組で、安藤がスタッフをどつく場面が放映されたらしい。こういうエピソードが積み重なってイメージが出来上がっているのだろう。しかし私の限られた講演会とサイン会の経験から受ける印象は全く逆だ。少なくとも希望者全員のみならず、誰が買うとも知れない本まで含めて、イラスト付きでサインをするのは並大抵ではない。彼の読者への思いと実直な性格が伝わってくる。
















私の手元にはサイン本が4冊ある。残念なことに2冊でイラストが同じ題材になっている。彼の代表作である「光の教会」である。もちろん私は安藤にサインをしてもらえただけでも嬉しい。だがサイン会では常連の客も多いらしく、年配のご婦人には「安藤先生、今度は住吉の長屋にしてね」などとイラストに注文までつけている方もいた。とても私にはできそうにないが、安藤忠雄は快く笑顔で応じていた。

サイン会では新刊を中心に以下の本が売られていることが多い。残念ながら即売会で売っていない本にはサインはしてくれないようだ。
  • 「安藤忠雄の建築1 House & Housing」、2007年3月初版発行、安藤忠雄著、TOTO出版
  • 「安藤忠雄の建築2 Outside Japan」、2008年1月初版発行、安藤忠雄著、TOTO出版
  • 「建築を語る」、1999年6月初版発行、安藤忠雄著、東京大学出版会
  • 「連戦連敗」、2001年9月初版発行、安藤忠雄著、東京大学出版会
  • 「安藤忠雄 建築手法」、2005年2月初版発行、二川幸夫発行、A.D.A.Editor Tokyo
書店で安藤の新刊を見ても我慢して買わないようにしている。安藤の本はなるべく図書館で借りて読み、即売会で買うのである。どうせならサイン本が欲しいではないか。

2008年7月15日火曜日

一体何件あるのか、安藤忠雄の建築

安藤の作品を訪ね歩くうちにこの疑問が頭を離れない。私はこれまでに見つけた安藤建築をGoogle Mapに登録して記録している。今のところ日本国内の作品が対象だが今日現在(2008年7月15日)、218件が登録されている。既に訪問したものが92件、25件の場所が未だに不明である。しかしこれで全てではない。












私の情報源は主に書籍とインターネットだが、どうやら安藤建築の全てを網羅したリストはどこにも無いらしい。安藤の著作物にも巻末に作品リストが載っているが、どの著作のリストも完全に一致しないのだ。しかもインターネットの情報によると、それらに全く載っていない作品もあるらしい。個人住宅や商業建築では施主の意向で全く公表されないものがある事を窺わせる。

恐らく正確な数は安藤本人しかわからないのだろう。安藤は雑誌のインタビューで「今まで手がけた建築作品は一体どのくらいあるのでしょうか?」という質問に対して、「いつか仕事をやめたとき、数えてみようと思っています」と回答している。(カーサブルータス特別編集「安藤忠雄×旅 総集編」より。) 全くの勘だが、私はまだ全作品中の三割程度は未発見だろうと思っている。つまり国内には300ぐらいの作品があると推定している。意図的に安藤建築の見学を始めたのが昨年の4月なので一年三ヵ月でおよそ30%を見学できたことになる。いいペースだと思うが、多分生涯で全ての作品を見ることはないだろう。どこまで迫れるのかライフワークとして取り組みたい。

参考までに一般に手に入る書籍で、作品リストが新しくまた充実していると思われるものは以下である。
  • 「安藤忠雄の建築1 House & Housing」、2007年3月初版発行、安藤忠雄著、TOTO出版
  • 「安藤忠雄の建築2 Outside Japan」、2008年1月初版発行、安藤忠雄著、TOTO出版
  • 「ANDO Compelte Works」、2007年初版発行、Philip Jodidio著、TASCHEN
これらは写真や図版が美しく、作品集としても素晴らしい。是非ご覧になることをお勧めする。